ある日の午後の時間、携帯の着信に気が付いた。
早紀さんからだった。
非常階段を泣きながら上がっていく彼女を見たと教えてくれた。

何があった?

財布を持って非常階段へ急ぐ。とりあえず上へ。
ゆっくり上がっていくと人の気配があった。
暗がりのてっぺんの段に座ってる小さな影。
あの時の玄関の姿を思い出した。

声をかけて一緒にしゃがんで顔を見た。
俯いていて表情は見えない。でも泣いてるのはわかる。
細くなった肩が小さく震えていた。

酷く傷ついてるのは分かった。
全力で言葉を尽くした。

途中から話がおかしな方向に行った。


震える声で『結婚おめでとう。』そう言われた。


誰が?


手続きが云々・・・。
なるほど、そこまで聞いて話のおかしい部分は分かった。

ちゃんと事実を正しく伝えた。
お互いの間がまるで異国中継の様にすら思える。

この上なく分かりやすく説明したのに、もう一度言わされる。

やっと顔を見れたけど、涙で赤くなった眼は何の目力もなし。
魅力が半減じゃないか。

鼻も赤く、化粧なんて落ちまくってるんだろう。
その顔は知らなくても懐かしいと思えるくらい、幼かった。
まるで子供の頃の顔が浮かぶようで。

ここは会社で仕事中だと分かってるだろうか?
いつまでもここにいたいが自分もそういうわけにはいかない。
声を潜めるのも、こんな薄暗い埃っぽい所も勘弁してもらいたい。


とりあえず仕事終わりに捕まえる約束をした。
逃げたら許さないと脅すように言ってみた。
ちゃんとうなずいたのを確認した。

仕事中だから・・・・・軽くキスをして仕事に戻ろうと促した。


トイレに行くように言っていつもの友達に後は頼んだ。
ビックリして自分を見た友達。
果たして何と言い訳するんだろうか?

何をしてたのか、何を泣いてるのか?自分がどう関わってくるのか?
必死に言い訳を考えただろうか?
夕方、確認しよう。

とりあえず仕事をしよう。
外回りがない日で良かった。
早紀さんが発見してくれて良かった。
手短に早紀さんにお礼を送った。

ふう、早い段階で自分のことは誤解だと分かってもらえてよかった。


そしてやっと今、自分の部屋に連れて来ることが出来た。

ようやくだ。

週末じゃないのが残念だが約束した通り、話を聞こうじゃないか、先に進もうじゃないか。