それから数日後、兄に言われて実家に帰った。
そこに当然早紀さんもいて。

『この間、譲ちゃんと話をしてるのを見かけたの。すぐわかった。だって顔が全然違うんだもん。』

早紀さんが嬉しそうに言う。
弟の恋愛を応援してくれる美人の義姉。
前に一度話しかけてるのを見られたらしい。
兄の前で揶揄う様に言われた。

『譲ちゃんと話してるときは隠せないくらいうれしそうな笑顔をしてる。』

何故か名前もバレていた。
秘書課、恐ろしい。

明らかに確信をもった言い方だった。

まずびっくりした。
手ごたえのないやり取りに常にがっかりしていたのに。
早紀さんにそう言われて・・・・・。

何の抵抗も反論もせず、認めたようなものだ。
兄もそう思っただろう。

早紀さんがそう言っても、やっぱり兄は何も言わず。
彼女に彼氏がいるらしいことなんか言わなかった。
その情報はまだ秘書課にも届いてないらしい。
でも自分がハッピーだとは思われなかったらしい。


自分のさえない反応を見て、思うこともあったようで。
『何か協力出来ることはある?』
早紀さんにそう言われた。

首を振った。

今はどうにも動けない。
そう思ったから。


こっぴどく振られたのに、まだどこか期待する自分もいる。
しつこく諦め切れない自分。
あの次の日だったか、会社を出たところで先輩と話してる彼女に気がついた。
後ろ姿でも分かる、やっぱり嬉しそうでも、楽しそうでも、幸せそうでもないじゃないか。

狙って見つけていた偶然が、狙わなくなった途端すぐに目の前に。
しかも決定的に嫌な場面だった。

二人が別れて、ぼんやり駅に向かう彼女の横を名前も呼ぶことなく追い越した。
『お疲れ様。』 ただ、それだけは言った。
返事はなかった。
振り向きもせず、足どりも緩めずに改札を目指した。

痛い。

自分の痛みと彼女の痛み、二人分感じる。

この間だって、相談にならいつでものるって言ったから・・・。
そう言った自分を思い出してくれればいいのに。


しばらくして、次に見かけた時は髪型をガラリと変えて別人になっていた。
雰囲気が全然違う。
何で・・・・。印象的だった黒髪が短く切られて、黒髪でもなくなっていた。
似合ってるけど、何かあったのか?
相変わらず横顔にも元気がない。痩せたんじゃないのか?
立ち止まって見てたのに気が付くこともなく。

本当にあそこまで拒否されたら、さすがに声もかけられない。
あんなに隙だらけなのに。
それなのにいざ近寄ろうとすると冷たい固いバリアが張られてるように思うのは自分だけだろうか?