知らなかった。

あの日、彼女も適当にふらふらしてたんだろうと勝手に思ってた。
落ち込んでいるようには見えたけど、あの時間まで何をしてたのかなんて聞く必要もないと思ってた。
お昼も食べたと言われて、てっきり一人で食べたんだと思い込んでいた。

まさか同じ課の先輩と付き合っていたなんて。
あの日もデートしてたなんて。

何であんな時間に一人になったのか、なんであんなに元気がなかったのか。
彼氏と過ごした後にあんな感じなんてありか?


ショックでしばらく思考力が落ちた。

その日は外回りは終わっていたから午後の間会社にいた。
ふと気が付くとぼんやりしてて、あの日の彼女を思い出していた。


昼に食堂で聞いた彼女の友達とその先輩本人との会話。
何で彼女がいないんだろう?
そこは疑問だったが忙しくてお昼がズレたらしい。
友達にも詳しくは話してないのだろうか?
それともあの時はまったく別のことで落ち込んでたとか?
嬉しそうにデート報告を聞きだそうとしてる彼女の友達に堪えられなくて、初めて知ったその事実だけで嫌になり、食事も途中だったのに席を立った。

自分の席で仕事をしながら結論の出ない事実をこねくり回した。

分からないことは、はっきり聞こう。
幸せじゃないなら、諦めさせればいい、そのくらいの気持ちで。


少し残業して一人で会社を出た彼女をうまく捕まえることが出来た。

「ちょっと時間もらえないか。仕事の途中なんだ。すぐ終わるから。」

そう言って駅から離れた方へ歩いて行く。
ついてくると思っている。

「なあ、同じ課の千野先輩と付き合ってるって・・・・・。」

本当なのか?
真面目に聞いた。だが答えは冷たく一言。

「大場には、関係ないよね。」

ないと思ってるのはお前だけだ、そう思った。

「あの土曜日もデートしてたんだな。ランチして映画見て。」

「なあ、デート後に何であんな不幸オーラまとってるんだ?」

「本当に好きなのか?どう見てもハッピーじゃない。」

そう見えた、だから何かあるんだろう?
本当に好きなのか?

否定されることはなかった。
それより返された言葉を探ってしまう。

何だいびつな関係って。
三角関係、二股、略奪。

何だよ。

「関係ないから。・・・・」

「本当に、もう、構わないで。」

そう言われた。同僚にはなれても相談相手にはなれない。
当たり前だ。いつも隣に友達もいるじゃないか。
でも、近いからこそできない相談もあるだろうと思ったのに。
実際できてないんじゃないか?

ただ、そんな相手は自分でもなかったらしい・・・・。

「譲。」

走って行く背中に呼び掛けた。
止まることもせず、ただ見えなくなった。


気が付いてたのか?
俺の気持ちに気が付いてて、それでも、迷惑だったと?
勝手に誘ってばかりなのが迷惑だったということなのか?

押し付けてなんていない。・・・・きっかけが欲しかっただけなのに。

だいたい、じゃあ、何であんな顔をしてたんだ?
確認したくなるじゃないか、本当は・・・・どう思ってるんだと。


自分のことは全て、最初から迷惑だったのか?
ただただ自分が勝手に振り回してただけで、断れなかったというのか?

会社に戻り仕事をした。
効率の悪い日だったが何とか終わった。