少し目を閉じてもたれる。
ゆっくり頭を撫でてもらって目を開ける。

「ちゃんと声出して。またサボっただろう。」

じっと見る。
無理。出せない。
そんなタイプじゃない。

がっかりした?

「まあ、いいか。ちゃんと分ってるから。最初に言い出したのは譲だし。」

何を?

「欲しいって。」

言ってない。多分言ってない。

「お願いされたけど。」

お願いはした。
我慢できなくて。

「ねえ、なんで私なの?」

「じゃあ、何で俺なんだよ。」

「・・・・顔が好きだって。笑顔が。」

「なあ、それだけ?」

「あとは、・・・・ずっと好きで見てたから。」

「具体的には言えないだろう。まだ俺の方が言えそうだ。最初から、研修中も、飲み会でも、一人でいて声をかける時も。ずっと見てた。譲を見てた。素直じゃない所も好きだった。絶対俺の事を気にしてるのに、一人でいじけてムキになってって。」

「その自信は何よ。」

「目を見ればわかる。」

「他の人に向けるなって言ったのに?」

「そりゃあそうだ。他の奴をじっと見るな。見るより喋ってくれ。無言で聞いてくるのは俺だけにして。」

「言葉にしろって言うくせに。」

「そりゃ手っ取り早い。時々わからないから。」


自分でも分からないからしょうがない。
揶揄われてるとしか思ってなかった。
何でだろうと思って、美人の彼女がいるとわかって、妹が欲しいのだと知って・・・・。
酷い誤解・・・・。


今はただ近くにいてくれることがうれしい。
もし非常階段であの人に会わなかったら・・・・。
仕事が終わった時間になっても、ずっとあそこにいたかもしれない。
ホコリにまみれて真っ白になって。


「あそこに来てくれてありがとう。」

そう思ったら素直にお礼を言えた。

「ああ、義姉さんに感謝だ。」

頭を撫でられて胸にくっついた。