顔が離れた気がして、目を開けた。

終わり?

「だからちゃんと言葉にしろって。何?」

何って・・・・。
別に・・・・。

じっと見たまま何も言わずにいた。

「随分、髪の毛切ったんだな。色も明るくなってるし。あの頃、勝手に見てた顔を忘れたかも。これも似合ってる。」

短くなった横の髪の毛先をいじられる。

前髪も随分軽くしてもらってサイドに流してる。

今ではすっかり慣れてしまったこの色と長さ。

「なあ、今すっごく褒めたんだけど、無反応なのか?」

いじっていた髪グイグイと引っ張られた。

痛い。

声には出さない。

「でも、変わんないな、やっぱり。」

そう言われた。

変わったはずなのに。


「どうする?」

何を?
また見上げる。

「このまま泊まって、明日の朝早起きして部屋に送るか、今荷物を取りにいってから戻ってきて、ここでゆっくりするか。どっちにする?」


何でその二択なの?
半分以上条件が決まってる。
ここに泊まるって事前提じゃない。


「一番?二番? 時間がもったいないよ。」

「・・・・じゃあ・・・・二番。」

「しょうがないなあ、早起きがそんなに嫌なら仕方ない。」

そう言ってテーブルの上に置いた携帯を操作して立ち上がる。

「行こう。」

手をつないで部屋を出た。
少し歩いて駐車場へ。

何だか入力して車を出す。

「大場の車?」

「違う。カーシェアリング。滅多に使わないから持ってない。たいてい電車で済むところしか行かないし。譲のところは車の方が便利だな。」

住所を言わされてカーナビに入力して発車する。
確かに20分以内に到着予定。

大人しくシートベルトをして、暗い車内で、時々横目で見る。


「持ってくるもの考えたか?」

「歯ブラシとタオルとパジャマはいらない。用意するから。」

「下着と着替え2、3日分と化粧品。後はよくわからないけど必要なものだけでいい。」

「何でそんなにたくさんいるのよ。」

「予備だよ、予備。」

必要?

そんなにたくさん持ってないし。
スーツなんて着まわせれば十分。
下着とブラウスでいい。
メイク用品もちょっとでいい。
会社に置いてあるし。
ポーチにも入ってる。


「その角のマンションなの。」

指をさして教える。適当な位置に止まった車。

「じゃあ、そこのコンビニで買い物してるから、ササっと戻ってこないと置いてくぞ。」

「絶対置いてかないくせに。」

「バレたか。置いていかない代わりに、こっちからマンションに乗り込むぞ。」

「部屋、分からないじゃない。」

「間違ったふりして全部の部屋にピンポンする。」

「嫌がらせじゃない。」

「だからササッとな。」

「・・・・はい。」

シートベルトを外して外に出る。
自分の部屋に走って行き、車がゆっくりターンするのを背後で聞く。

適当に服をバッグに詰めて化粧品を必要なものだけ持って、下着やストッキングも入れた。言う通り三枚入れた。

素直過ぎるんじゃない?

部屋を見回して又電気を消す。
冷蔵庫の中身は・・・・一応見て大丈夫そうだと判断して玄関を出た。
すごく早かった気がする。

あんまり早いのもどう?

コンビニまで余裕でゆっくり歩いた。