すっかり体を包み込まれたまま。

なかなか顔もあげない私。

どうやら諦めたらしい。
顔を胸に引き付けられた。
すぐ上に顔があるのが分かる。
息がかかる。

会社で、あの埃っぽいところでキスをしたことを思い出す。

「譲。」

名前を呼ばれるとその振動までもが伝わる。
声からも、のどからも、胸からも伝わる。

「譲。」

返事をしないでいたらもう一度呼ばれた。
ゆっくり顔を動かすけど視線は合わない。


片手を頭にのせられて髪をなでられながら、また、ぐっと胸に引き寄せられた。
頭の上が熱い。
キスをされてると分かった。

ゆっくりと頭を離されて顔をのぞきこまれる。
やっと視線が合った。

ホントの最初のあの時、大好きだと思った顔が近くにあった。
笑顔が素敵だと思った。すぐに大好きだと思った顔。

グンと近づけられた。

「本当に俺以外にはして欲しくないんだけど、それ。」

それ?・・・なに?

「そうやって上目がちにじっと見るよな。言葉もなく。」

癖なんだと思う。自分では聞いてるつもりで答えを待ってるつもり。
ただ声に出てないだけ。

「今何を思ってる?言って。」

「・・・・顔が近い。」

「・・・・そんな事なのか?じゃあ、目を閉じてもいいのに。」

「好きなの・・・・最初から・・・・大場の顔が。」

「初めて褒められた気がする。褒めたんだよな?」

そう言ってうれしそうな笑顔になった大場。
変わらない笑顔。

初めて?・・・・だって私の事だって、一度も褒めてくれたことなんてないじゃない。

「何だよ。言ってって。」

「私はない、一度も褒めてくれたことなんてないじゃない。いつも馬鹿にしてた・・・・。」

「全部細かく言ってたら時間が足りない、・・・・全部だよ。全部好きだから。」

「華やかな人が好きだって言ってたのに。」

「いつだよ、知らないよ。」

「百瀬さんみたいな華やかな人がいいよなって言われて、ああって言ってた。」

「そりゃあ、話の流れだろうよ。『俺は只野譲のような子の方が断然いい。』って言うのもおかしいだろう。だいたい、その話はずいぶん昔だよな。適当に場を読んで返事しただけのことじゃないか。」

じっと見る。嘘はないかも。

「まだ、信じないのか?」

首を振る。信じたいから信じることにする。
視線を合わせて本当に顔が近くなった。
ギリギリぶつかりそうになり、目を閉じた。

唇を挟み込まれるように軽く吸われてキスをされる。
息苦しいほどの激しいキスじゃなくて優しいキスで。

ぼんやり目を開けたら目が合った・・・気がして急いで閉じたら力が入った。