「トイレに行けば。中村さんに化粧道具持ってきてもらうか?酷い顔。」

頬に手を当てられて、軽くキスをされた。

逃げるなって言われたから逃げなかった。

初めてなんだから目は閉じてくれていいのに。
小さくそう言われた。

しまった・・・。
いろいろ頭が忙しくてそこまで、そつなく対応しきれない。


「行くぞ。」

そう言われて手を引き上げられた。

もたれるように支えてもらい立ち上がった。

「じゃあ、中村さんに声をかける。トイレにいろよ。」

手をつないで降りていく、途中まで。

「じゃあ、仕事のあとで迎えに行く。」

頬を軽くたたかれた。

先に歩いて行った背中を見送る。
ハンカチで目元を拭いて、深呼吸してトイレに行った。
誰もいなかった。

鏡を見る。
確かにひどい。

また目が腫れた。
水を出しながら冷やす。
どのくらい時間がたったんだろう。
サボってしまった・・・・。サボらせてしまった。
今日、話をすることになった。

何を話すの?



でも、誤解だった。
全部・・・・・。
私が悪い?違う。
しょうがない、本当に見かけたし。


誰だってそう思う。


それにアプローチって何よ。
確かにこの間保険証の住所を見せられたけど。
酔っぱらったら送って欲しいって、それだけだったじゃない。


知らない。
何も知らなかったから。