何でいるの?どうしてここにいるの?

いきなり顔が落ちてきた。
目の前にしゃがんで視線が合う。

「どうした?今度こそ、相談してくれる?」

何でここにいるのよ、・・・そうか、彼女に聞いたんだ。
でも、何で来るのよ。

一体何?


「声に出してって。」

「・・・何でここにいるの?」

「教えてくれる人がいた。」

やっぱり・・・・。
軽く両肩に乗った手を払った。

「構わないでって言ったのに。2人して、なんで・・・・・。」

「なあ、社内で・・・何があったらそんなに泣けるんだよ。逆に聞きたい。誰がそこまで追いこんでる?本当は誰に縋りたい?あの先輩だったら呼んでこようか?俺じゃダメだって言うんなら、呼んで来るよ。はっきり言えよ。」

馬鹿じゃん。いつまでも、勝手に誤解して。

「全然幸せそうじゃない。やめろよ、そんな奴。・・・・俺がいるから。俺がそばにいる。譲のそばにいるから。」

そうやって・・・・・。

「兄貴面しないでっ。馬鹿じゃん。何で・・・・、近くにいれるわけないでしょう。人のものなのに。法律にも認められて。もうすぐ事務処理も終わるわよ。みゆきがやってるから。・・・結婚おめでとう。私の耳にまでは入ってこなかったから遅くなったけど。・・・・・お幸せに。」

最後に声が揺れた。
勝手に幸せになればいい。




「はあ?」

随分の間が開いて、大場が言った一言は間の抜けたものだった。


「誰が結婚するって?」

「その話の流れだと俺ってことになってるけど、事務処理って書類見たの?ちゃんと見たの?俺の名前知ってるの?大場啓ですが、知ってる?分かってる?」

何で切れ気味に言われるのよ。知らないわけないでしょう。

『大場 啓って「オバケ」って覚えて欲しい。』
最初の研修の自己紹介の時にそう言ったから覚えてるわよ、私だけじゃなく、みんなが。

「ねえ、顔をあげて。」

酷い顔だと思う。あげるもんか。
そう思ったら顎を持たれた。
痛い・・・・。



「秘書課の百瀬早紀さん、さっき会ったでしょう?すれ違ったって言うのかな?俺の義姉さんになった。兄貴の奥さんね、兄貴と結婚したの。兄貴は・・・二個上、自慢の兄貴、大場 陽 二人合わせて大ヨウケイ場。分かった?」


なんて・・・・・もっとゆっくり言って・・・・。
もっとシンプルに事実だけを。

「馬鹿じゃん、勝手に誤解したんだろう?」

小さい声で目の前で言われた。

嫌な笑い方をして、でもその笑い顔もすぐに消えて悲しい顔になった。
さっき自分が思ったセリフ。そのまま言われた。確かにそう思ってた。
・・・誤解?勘違い?
分からない、書類はちゃんと見てないし。
確かめられない。

「ねえ、相談してって言ったよね。先輩の事で悩んでる?それとも・・・・・今の今まで誤解してた事?どっち?答えて、ちゃんと声を出して教えて。」


「誰が結婚するの?」

「俺の兄、大場 陽。相手は秘書課の百瀬さん、美人で素敵なお姉さん。付き合いはもう三年くらい。俺が入社する前から。兄とは大学の先輩後輩。」

じゃあ、あの時・・・・・、あの飲み会の時から知ってたの?
義姉・・・・・。美人の姉。自慢の兄の奥さん・・・・。


「ねえ、答えて。どっち?」

「なんで、ここにいるの?」

「いい加減にしろよ。義姉さんが心配して連絡してきたんだよ。」

「関係ないのに。なんでそうやって甘やかすの?中途半端に・・・・・。」

「何でって、分からないのか?いつからそんなアホになった?何度もアピールしたよな、惚れて欲しいとも言ったし、一緒に帰って泊まって欲しいまで言ったのに。ずっと社内恋愛はしないって言いながら、へらっと先輩とデートして。好きだけど、それだけじゃうまくいかないなんて言って。俺のことも散々振り回して。あれは何だった?本当に付き合ってたのか?そんなに好きなのか?」

よくわからない。何を言われてるのか。

「ずっと好きだった。何度声かけても全然うれしい顔してくれなくて。いつも迷惑そうで。本当に迷惑なのかと思った時もあったけど。」

けど・・・・?

「間違いないって思ってた。絶対、うまくいくって。」

何・・・・それ?

「なあ、いい加減仕事に戻らないと。続きは仕事が終わってからにしよう。」

小指を絡められた。

「連絡する。逃げるなよ。逃げたら名前を呼んで追うから。」

目の前で凄い顔をされた。
だから、つい、うなずいた。