そのまま食欲もあまりないまま、日々が過ぎる。
数日してから、会社を出たところで千野先輩に呼び止められた。


「只野さん、お疲れ様。」

「千野先輩、お疲れ様です。」

ちょっとびっくりした。
最近さりげなく避けるようにしてしまっていた。
気が付いただろうか?
噂になる前に、これ以上勘違いされないように。

大場には否定も肯定もしなかったから付き合ってるって思ってるだろう。
私が先輩のことを好きだと思ってる。
・・・・違うのに。


「話があったんだけど、なんだか話しなくても返事が分かっちゃった気がする。・・・・好きな人がいるの?」

「・・・・はい。」

そう答えていた。

いるの?・・・・・好きな人。

「そうか・・・・。残念。」

残念なのは私もです。

「うまくいきそう?」



「いいえ、素敵な彼女がいます。偶然、二回くらい見たことあるんです。」

そうなんだ・・・・・私。
今自分がすらすらと喋ってる内容が自分の心から出て、また心に戻っていくような。
ずっと分からなかったのかも。
心の中は自分でも見れないから。
外に出た思いが、目の前に来て。初めて分かった。

「・・・それでも好きなんだ。諦めない?」

「・・・・多分、・・・・しばらくは、無理です。」

「そう。じゃあ、しばらく僕も諦めないかな。お互いしつこいかもね。」

目の前に立たれてそう言われた。
すみません。
言葉には出ない。

「じゃあ、また明日。」

「はい。・・・・お疲れさまでした。」

先輩が歩いて行った背中を見る。
しばらくして自分も歩き出す。
後ろから追い抜きざまに声がした。

「お疲れ。」

追い越した声も、背中も大場だった。

見てた?

見てただろう。
いつもならもっと声をかけてくれるのに。

『構わないで。』

そう言ったのは私だから。
だから、名前も呼ばずに、ただの同僚らしく挨拶をして帰って行った。

それだけ。

顔も見えなかった。
妹役を嫌がったのに、その途端あの笑顔も見れなくなることには思い至らなかった。
ちょっと揶揄うような意地悪な笑顔も。


下を見ながらゆっくり歩いて部屋に戻った。

シチュー、いい加減に食べないと。
買い物もしないで帰って来たから温めてすする様に食べて。
咀嚼する必要ないくらい柔らかくて助かった。

それでも半分残った。

また明日に残った。