変な予感がした。

次の瞬間には、息が詰まっていた。


硬い、細い、力強い体が、きつくわたしを抱きしめている。

雅樹の髪と肌の匂い。

体温、汗、呼吸の音。


わたしはゾッとして身動きがとれない。

背筋に寒気が走る。

鳥肌が立つのがわかる。

相手は雅樹だ。

雅樹なのに、こんなにも怖くて、キモチワルイ。


雅樹はつぶやいた。


「こういう感触なんだ。すげー。ちょっと想像できなかったな、これは」


雅樹の鼓動の音が、そのやせた胸板から伝わってくる。

速い。

雅樹は何を感じているんだろう?


顔を背けながら、雅樹はわたしから離れた。


「ぶん殴ってくれていいよ。こうしてみたいっていう衝動を、ただテストするだけのために、失礼だってわかってても彼女と別れずにきたんだけど。おかげさまで、これで別れられる」


雅樹が傷付きたがっているのがわかった。

だから、わたしは雅樹の頭を思いっ切り叩いた。

いや、思いっ切りのつもりだったけれど、震える腕にはあまり力が入らなかった。


「あんたがここまでバカとは知らなかった」

「どんどんバカになってってるよ。頭と心と体がバラバラに動く瞬間って、ない? おれ、そんなのばっかりだ。今のもかなり最低だよな。自分でも意味わかんねえ」


雅樹が低い声で吐き捨てたとき、ひとみが風呂場から出てくる音が聞こえた。

わたしも雅樹もそれっきり、ひとみと雅樹が木場山に帰っていくまで、一度も目を合わせないままだった。