ゲラゲラ笑い転げる輪の中に誘われて、昼休みを一緒に過ごした日があった。

自分の顔が引きつっているのがわかった。胃がキリキリした。


「ごめん、ちょっとトイレ」


隣にいた子に断って、輪を抜ける。


「一緒に行こうかー?」


大声で言われる。


「ウチも行こっかなー?」


「あっ、ウチもー」


ぞろぞろついてこようとする。

わたしは振り返って、作り笑顔で答えた。


「もう校内の配置とか頭に入ったし、迷わないから大丈夫。ありがとう」


ついてくるな。

そう吐き捨ててしまいたかった。


この一件が決定打だった。

わたしは最初から友達なんか作るつもりもなかったけれど、琴野中学校は絶対に無理だと思った。

何でこんな学校に通うことになっちゃったんだろう?


一人で過ごそうと決めた。

もともと、一人でいても平気なタイプだ。


開き直ったつもりだった。

でも、聞こえてくるまわりの声は、どうしたって、うっとうしかった。


気晴らしをしたい。

どこか遠くに行きたい。


何となく、そんなことを考えた。

だから五月の連休の初日の朝、衝動的に列車に乗った。

向かった先は、前に住んでいた木場山郷《こばやまごう》だ。


わたしはケータイを持っていなかった。

一九九八年の話だ。

仕事をしている大人なら、半分くらいはケータイを持っていただろうか。

家にインターネットがあるのは、全体の半分くらいだっただろうか。

そんな時代だった。