夜、電話がかかってきた。
久しぶりに、ひとみからだった。
木場山中のころにいちばん仲が良かったのが、たぶんひとみだ。
〈元気? あのね、お願いがあって、電話したの。夏休み、そっちの高校のオープンキャンパスのとき、蒼ちゃんちに泊めてもらえないかと思って〉
「ああ、いいけど。オープンキャンパス、行くんだ?」
〈蒼ちゃんは行かないの? 県立高校、狙ってるでしょ?〉
「そうだけど」
〈蒼ちゃんちから近いんだよね?〉
「県立五校のうちでいちばん近い学校は琴野町内にあるよ。歩いて行ける範囲」
〈オープンキャンパス、一緒に行こうよ。雅樹くんも行くって言ってた。雅樹くんも蒼ちゃんちに泊めてもらう予定って〉
「は? 聞いてない」
わたしは聞いていなかったけれど、うちの親と雅樹の親の間で話が付いていたらしい。
ひとみとの電話を切った後、初めて知った。
気が重くなった。
進路説明会や進学関係の集会は、わたしはいつも欠席している。
いちばん近い県立高校に行く。
成績的にも問題ないし、通学時間は短いほうがいい。
迷う要素もなかったから、オープンキャンパスにも行かないつもりだった。
だけど、ひとみも雅樹も来るんだったら仕方ない。
わたしだけが欠席するわけにはいかない。
わたしは、夏休みには一度も袖を通すつもりのなかった制服を、オープンキャンパスの日に着ることにした。



