担任は、進路希望調査の紙を智絵に差し出した。
「中学は卒業させてあげられる。でも、この先はどうするの? 高校は? どうやって生きていくつもり?」
担任はチラッとわたしを見る。
まるで、わたしが将来の道をしっかりと決めた優等生であるかのように。
高校とか、その先とか、わかるもんか。
中学を卒業するまで生きていられるかの保証だってないって思う。
だって、消えたいとか死にたいとか、呼吸をするのと同じくらいしょっちゅう思っているんだから。
智絵は、せわしなくまばたきをしながら、震える声を無理やり絞り出した。
「こ、高校は、通信制に……どうにか、目指します……」
「そう。じゃあ、それを調査表に書いて提出して。今週末までだけど、学校に持ってこられる?」
智絵は縮こまったまま、うなずいた。
担任は部屋を出ていった。
智絵はゲームのポーズボタンを解除しない。
怖くてキモチワルイんだな、と、わたしは感じた。
わたしが体に触れられてイヤだったのと同じように、智絵の範囲はこの部屋なんだ。
「大丈夫? 遅くなるとまずいし、わたし、そろそろ帰るね」
わたしがそう言うと、智絵はホッとした様子だった。智
絵に会えない日が増えるんだろう。
わたしは直感的にそう思った。
普通のこと、当たり前のことができない。
学校に行くとか、人としゃべるとか、笑うとか。
その無力感は、口で説明できるものではない。
わたしも、経験して初めて知った。
抜け出したい。
でも、どうしようもない。
普通って何だろうって考えても、答えは出ない。
考えずに振る舞うことが普通なんだろう。
それができないなんて。



