壁の向こうの出来事だ。

勝手に言っていればいい。


そんなことが、たびたび。

わたしはいつもポーカーフェイスを決め込む。

好きとか憧れとか美人とか、本当か嘘かわからない言葉の群れにも慣れた。


壁の向こうのはずだった。

徹底的に冷たい空気を出しているつもりだった。


それが、どうしてなのか。


いきなり後ろから抱き着かれた。

女子だ。

わたしよりもだいぶ背の低い、むにむにした体の感触。

生ぬるい体温にゾッとして、わたしは息ができなくなる。


「蒼ちゃんのボディ、もっちもちー! 抱き心地サイコー! 胸、超いい感じ!」


小さくて無遠慮な手がわたしの体の上を這い回った。

ピンク色に塗られた長い爪。

細い鎖のブレスレット。


鳥肌が立った。

口の中がカラカラになった。

体が震えた。


さわらないで。

離れて。

勝手に大人になってしまう体のことなんか、考えたくもないのに。


振り払おうにも、体に力が入らなかった。

怖い。

キモチワルイ。

さわってくる相手が男だろうが女だろうが関係ない。

わたしは、人にさわられたくない。

わたしは人間が嫌いだ、とハッキリ思った。


「や、やめて……」


混乱しながら顔を上げた。

何人もの男子と目が合った。

上田や菅野はパッと顔を背けた。

逆に、じっと見てくるやつもいる。


恥ずかしくてたまらない。

涙をこらえるのがやっとだ。