始業式は胃が痛かったけれど、何とか最後まで耐えた。
去年の担任は、別の学年の担当になっていた。
ホームルームでの自己紹介は、名前と「よろしくお願いします」だけ言った。
初日から欠席している人がいた。
教室に来られない生徒は全部のクラスに、それぞれ二人か三人ずついるらしい。
自己紹介の順番が空席のところに回ると、理科担当の若い男の担任が、本人の代わりに名前を読み上げた。
そうしたら、聞えよがしなヒソヒソ声が、教室のあちこちで上がる。
「去年いじめられてたんだって。かわいそーだよねー」
「仕方ないんだよ。あいつ、超くさいもん」
智絵も同じように言われているんだろう。
「ふざけんな」って立ち上がってぶち壊すことができたらいいのに。
このまま何も変わることなく、一年が過ぎていくんだろうか。
一年。
こんな学校で、まだあと一年。途方もなく長い。
親も教師も「高校に上がったら必ずよくなる」と言う。
地域に縛られた義務教育の中学校と違って、高校は成績で振り分けられた結果だから、学力や感性が近い人が集まる。
高校ではきっとなじめるはずだって。
友達ができるとか楽しくなるとか、そういう期待はしていない。
でも、何かきっかけがあれば、呼吸がしやすくなるんじゃないか。
それは思う。
掃除のとき、休み時間、放課後。
何人かに声をかけられた。
顔も名前も、話した内容も覚えられない。
でも、一つ、しっかりと意識に引っ掛かった言葉がある。
無邪気な、と言ってもいい男子の声。
放課後の会話だった。



