子どものころのわたしは一人で勉強をして、一人でお話を書いて、一人で唄を歌って、過ごしていた。


今やっていることも、あのころと似ている。

わたしは自宅でライターの仕事をして、

小説を書いてはウェブに公開したり賞に応募したりして、

地方都市のインディーズロックバンドで歌っている。


なんてね。


ここまで書いてきた短いプロフィールの中でも、わたしはすでにいくつもの嘘を物語っている。


本当のわたしは離島育ちで、隠れキリシタンの子孫だ。

一人っ子ではなく、弟がいる。

バンドを組んでいたのは学生時代のことで、今はカラオケで歌ったり、気まぐれにギターを弾いたりする程度だ。


こんなふうに、わたしは嘘の物語を書き進める。

事実ではないことも書く。


けれども、蒼の青春はわたしのたどってきた道によく似ているから、どうやったってわたしの真実はにじみ出てしまうだろう。


事実と真実は違う。

事実を並べるだけでは、真実は隠されたままだ。

嘘とも呼べる物語として描くことで、真実は初めて見えてくる。

それが小説の醍醐味《だいごみ》であり、おもしろさであり、恐ろしさでもある。


わたしは、わたしの真実を書こう。

普段は眠っている、毎日血を流していたころの自分を、この嘘の物語を書いている間だけ呼び起そう。


始まりは、中学二年生の春。

蒼であるわたしが山奥から都会へと引っ越した四月。


蒼は、気が付いたときには、学校に行けなくなっていた。

その日のことから書き起こそう。