「もう慣れてるから。あたしは、何ていうか……教室の隅っこで、影みたいになってればいいんだって、もうわかってるの。放課後、美術室で絵を描くのは楽しいし」
「悪いことしてるわけじゃないのに、何でそうビクビクしてなきゃいけないの?」
「……蒼ちゃんは、そういうとこ、カッコいいよね」
「え?」
「堂々としてる。イヤな相手のこと無視できるくらい、強くて。嫌いなものは嫌いって、態度で示すことができて……
だから、教室から、ふっといなくなったりするでしょ? でも、成績よくて。あたしには、できないことだよ」
違うよ。
逃げているだけ。
カッコよくなんかない。
わたしは自分が情けない。
前の学校の人たちに顔向けできないくらい、情けない。
わたしは、とっさに浮かんだ言葉を呑み込んだ。
言えない。
カッコ悪いことは言いたくない。
バッグの中から分厚いノートを取り出す。
「これ、わたしが書いてる小説。オリジナルで世界観を作るのは難しくて、練習のために二次創作してるの」
「えっ、小説で二次創作? すごい……み、見せてもらってもいいの?」
「うん。短編っていうか、おおもとになった小説では描かれてないキャラの視点で、同じシーンを書いてみたのが多い」
「あ、じゃあ、BLとか夢小説とかじゃなくて……」
「そういう恋愛系は書けない。もともと恋愛要素の薄い小説が好きだし。悩んでるシーンを書くのが多いかも。強くなりたいっていう気持ちとか、修行のシーンとか」



