中ほどのページで開かれたスケッチブックには、大きな鳥にまたがって空を駆ける少女の絵が描かれていた。
わたしが買ったばかりのファンタジー小説のヒロインだった。
繊細なタッチのイラストだ。
極細のペン先で輪郭が描き込まれている。
塗りは色鉛筆。
光の描き方が立体的で、触れれば凹凸を感じられそうだ。
「すごい。うまいね」
気の利いたことの言えないわたしの前で、智絵は真っ赤になっていた。
「あ、あたし、絵しかなくて……得意なことっていうか、できること、絵だけだから。でも、あのっ、蒼ちゃんがイラストとか興味なかったら、邪魔して悪いなって……」
「興味あろうがなかろうが、うまい絵を見たら感心するものだと思うけど」
「ん、そうでもないの。あたし、オタクで暗いから、こういうイラストはあんまり……教室では、出せない……」
ハッキリ言えない智絵が本当は何が言いたいのか、わたしにはわかった。
「今のクラスの人たちのうち、自分がイケてるって思ってるグループは、自分が持ってないものを否定したがるよね。自分が好きなもの以外は全部、悪口の対象にする」
智絵は、真っ赤なままの顔を上げた。
せわしないくらいのまばたきをして、また目を伏せる。
智絵の視線の先には、鳥の背の上で戦うヒロインの姿がある。



