その山奥はド田舎だけれど、日本史の研究者の間では有名らしい。

古代から続く特殊な信仰が残る場所だからだ。

万物に神が宿るという日本古来の信仰は、明治時代、廃仏毀釈の流れの中で何かと歪められ、破壊されてしまった。

でも、この山奥には今だ根づいている。


わたしも、うすぼんやりと、そんな感じのことを知ってはいた。

小学校の社会科で自分が住む町について調べ学習をしたときに、よくわからないなりに神さまについて模造紙にまとめた記憶がある。


小六と中学高校で繰り返し日本の歴史を勉強して、それなりに知識が身に付いた。

その上で再び、あの調べ学習で出会った神さまの痕跡をたどった。


神社や資料館で説明を読んでいると、きまって管理人が出てきて、木場山特有のフレンドリーさで、より詳しい説明を始める。

そうやって聞いた生の声、歴史の生き証人による情報が、わたしの知的好奇心を強く強く刺激した。


古い信仰を今に伝える考古遺物。

それが出てきた当時の様子をその目で見た人のリアルな証言。

祭りの祝詞をすべて覚えている人。

祝詞に込められた意味と、豊作や飢饉や迫害の歴史。


教科書に記すには、わたしが知ったことはあまりにも細かい情報だったと思う。

こういう細かい情報をできるだけたくさん集めて、全体像を形作っていって、そうやって組み立てたものでようやく教科書を作れるんだと思う。