「今日、部活?」

「うん。走ってたら、頭を空っぽにできる。競技の成績は全然、伸びなくなってんだ。限界ってやつ? でもまあそれでいいやって思っちゃってて、ただ頭を空っぽにする時間がほしいから、部活行って走ってる。おれの才能ってそんなもんさ」


勉強ができて、目立つ顔立ちをしていて、足も速い。

何でも持っているような雅樹でも、実はあきらめている。

上手に力を抜いている、ともいえるかもしれないけれど。


「冬休みの数学の課題、わたし、半分はそっちのクラスとも同じのをやることになってる。わたしにとってはかなりハードル高いから、ひととおり自分でやって、わからないのがあったら、ノート見せて」

「新鮮だな。蒼が普通のこと言ってくれた」

「普通って」

「おれら、理系と文系で別れてってよかったよな。もし同じ学部をねらうんだったら、一点の差とかで蹴落とさなきゃいけない相手同士だったわけだろ。しんどいよな、あれ。ライバルの顔が見えてたら、なおさらしんどい」

「イヤだよね。最近、点数とか順位とか評価とか偏差値とか、数字が付いて回ってばっかりで、追い詰められていく感じがする。数字が本当に嫌いになっていくのが自分でわかる」