「蒼さんは音楽系の部活とか、やってないんですか? まあ、進学校でしたっけ。忙しいですよね」
「そうだね」
「おれのところもけっこう忙しいんですよ。あ、うちも進学校なんですよ」
「ホームステイ、許可が下りにくかったんじゃない?」
「それなりに苦労しました。でも。どうしてもおれ、外国っていう場所に触れてみたくて。もう必死で先生たちを片っ端から説得して、やっとのことでここに来たんです」
「わたしは担任の先生の勧めでね。ほかの先生たちに対しては、説得っていうか、夏休みの課題を出発前に全部やるっていうのを条件に、無理やり納得してもらったけど」
竜也は肩をすくめた。
「高校生って不自由ですよね。大学生になったらやりたいことがもっと自由にできるのかなって思います」
「大学か」
「蒼さんの志望校、どこですか?」
「まだ決めてない。でも、担任やイチロー先生からは、響告大学の文学部に行けって言われる」
「響告大学。すごいですね。って言っても、実はおれも狙ってるんですけど。そっか。蒼さも目指すことになるようだったら、おれも本気出して頑張らなきゃな」
竜也は内緒話みたいに声をひそめながら笑った。
大学生になるというイメージが初めてわたしの中に生まれたのは、竜也と話したこのときだ。
大学に受かって家を離れるときは、ギターケースの埃を拭って持っていこう、と決めた。
そこでわたしはもう一度わたしに戻れるかもしれない、と思った。



