日が落ちると、その夜は本当に寒かった。

わたしと竜也とケリーとブレットはコートを着込んで、キャンプ場の真ん中に焚かれた火のそばで、何を話すでもなく、でも何となく笑い合いながら過ごしていた。


「It's so cold」と震えたケリーが、不意に目をキラキラさせてわたしに尋ねた。


「日本語でこういうとき、何て言うの?」

「coldは、寒い。さ・む・い、だよ」

「サ・ム・イ、サムイ。よし、覚えた! そろそろキャンピングカーに帰らなきゃいけない時間よ。それでね、帰る途中で人とすれ違うと思うんだけど、そのときは英語をしゃべっちゃダメ。サムイって言って、アメリカ人じゃないふりをするの」


OK、と返事をする声が重なった。

わたしたちは、ホットレモネードが空っぽになったカップをそれぞれ手に持って、キャンピングカーのほうへと歩き出した。


若いカップルとすれ違ったとき、予定どおり「サムイ」と言い合ってみた。

すれ違う二人が不思議そうなく目をする。

わたしたちは何食わぬ顔で歩いて、距離が開いてから、声を殺して笑った。

たったそれだけの、いたずらとも呼べないことが、なぜだかひどく楽しかった。