そこにいる全員が私服だった。

学校という世界から切り離して見てみると、中学生という存在は怖くなかったし、キモチワルくもなかった。


自己紹介をしたり雑談をしたり、そういう時間が少し設けられた。

わたしは、話すことができた。

竜也の目を見て、ちょっとだけ笑い返すこともできた。


そして今日は、ついに迎えた出発の日だ。

搭乗ゲートをくぐる前に集合写真を撮った。

親たちが不安そうに見守っていた。


わたしはイチロー先生の指示を受けて、あいさつの号令をかけることになった。

何年かぶりに、人に聞かせるための声を張り上げる。


「行ってきます!」


弾んだ声が重なった。


「行ってきます!」


不安はなかった。

ワクワクしていたわけでもない。

心は凪いで、穏やかだった。

毎日制服を着て学校に通わなければならない世界から解放されて、体が軽かった。

肩や背中のこわばりが消えて、呼吸の仕方を忘れることもなくて。


日本からミネソタ州のセントポールまで、フライト時間は十四時間。

大半を眠って過ごした。

クーラーが効きすぎていて、少し寒かった。


夏時間の今、日本とミネソタ州の時差は十四時間だ。

乾いた空気の空港に降り立つと、飛び立った時と同じ日の同じ時刻だった。

日本では日付が変わった丑三つ時のはずだ。