ため息を聞き付けたらしい上田は、肩をすくめて小さな笑い声を立てた。


「文芸部のメンバーなら、そう心配することもないと思うよ。尾崎さんの基準で選ぶんだから。あの人はね、縛られるのが大嫌いなんだ。
同じ部屋の中にいても別々に集中していられるような、そういう人ばかりに声を掛けてると思う」


そうじゃないんだと、わたしは言ってしまえばよかっただろうか。


同じ部屋の中にいること。

すぐそばに人の気配があること。

それだけで圧迫感を覚えるんだ。

胃がキリキリして、胃の裏側に当たる背中がビシリと緊張して、肩がこる。

わたしには一人の時間がたくさん必要なんだ。


上田は腕時計を見た。

昼休みがもうすぐ終わる。

次は何だっけ。

確か、社会。

世界史を楽しみにしていたのに、一年生で習うのは現社だ。

世界史と日本史と地理の選択授業は二年生からだという。


わたしは部室から離れた。

上田が、智絵が憧れたあのきれいな声で、ささやくようにわたしに訊いた。


「途中まで一緒に、隣を歩いてもいい?」


上田の慎重さを、智絵だったら、優しさだと感じただろう。

智絵はおずおずとうなずいて、緊張して真っ赤になって、長いまつげを震わせながらまばたきをするだろう。


わたしは舌打ちしたくなった。

上田が勝手に隣に並ぶのなら、そんなふうに強引で自分勝手なやつが相手なら、こっちだって意地悪なことができるのに。

無視して振り切ってしまうこともできるのに。