昼休み、わたしは文芸部室がある校舎裏の細長いプレハブを訪ねた。

マイナーな部や同好会が使用が認められた部屋がずらりと並んでいる。


お堅いと評判の進学校である日山高校も、昼休みとなれば、にぎやかだ。

校舎のほうから、しゃべったり笑ったり叫んだり騒いだりする声が聞こえてくる。


部室のプレハブは静かで、ほったらかしの木々の影になって暗い。

木漏れ日の影がコンクリートの地面にまだら模様を作っている。


この場所は悪くないな、と思った。

とりあえず放課後、来てみてもいいかもしれない。


まだ活動の始まっていない文芸部の部室は、出入口の引き戸にカーテンもない。

授業中に何度も見て、すでに文面まで覚えてしまったチラシが、引き戸のガラス窓に貼ってある。


わたしはガラス窓に近付いて、昼間でも薄暗い室内をのぞき込んだ。

長机とパイプ椅子、移動式の黒板。

部屋の隅に段ボール箱が置かれていて、その中に過去の部誌らしいものが入っている。


ふと、ガラスに人影が映った。

男子だ。

見覚えのある背格好の人物。

わたしは振り返る。


やっぱり上田だった。

上田の手にも、わたしと同じ文芸部のチラシがある。


「こんにちは。ちょっと久しぶり。蒼さんも、尾崎さんのスカウトで?」

「まあ、うん」