尾崎はわたしの手をつかんで、チラシをわたしに握らせた。
「今日の放課後、暇? 蒼は部活も塾もやってないんだよね? ちょっとでいいから、部室へ来てよ。まだ全然、人が足りてなくてさ」
「あの」
「季節ごとに一冊ずつ、文芸部誌を発行したいと思ってるんだけど、ほんと、原稿を書ける人がいないんだ。お願い!」
「わたしの小説、読んだの?」
「読んだから誘ってんだよ! 同い年でこんな書ける人がいるって思ってなかった。
だって、平均的な中高生の小説っていったらさ、マンガをそのまま文章に起こしただけみたいな、そういうの書く人多いじゃん。セリフの羅列があって、地の文もト書きみたいな感じで」
「流行ってるからでしょ、そういうの」
「まあ、『スレイヤーズ』とかね。でも、あたしの好みじゃなくて。蒼の文章は、すっごい好みなんだ。えぐってくるじゃん、心理描写。
風景を書いてるところも、すごいきれいで、いいと思う。蒼はきっと、そういうきれいな景色を見てきたんだろうなぁって」
驚いた。
胸の奥の芯をつかんで揺さぶられたように思った。
智絵がイラスト付きの手紙で伝えてくれる感想を除けば、尾崎が初めてついた読者だ。
こうして生の言葉でわたしの文章を好きだと言ってくれるなんて。
気恥ずかしさと戸惑いがあった。
嬉しいかといえば、どうなんだろう?
嬉しいって、どういう気持ちだったっけ?
とにかくわたしは何と答えればいいかわからなくて、ただチラシを受け取った。
尾崎は満足そうだった。



