また、わたしは引け目を感じた。
わたしは何の苦労もしなくても、ちょうどのタイミングで親が町のほうに転勤になった。
親の転勤にくっついているだけで、大学進学に有利な公立高校の近くに住むことができている。
ふと、グラウンドのほうから大声が聞こえてきた。
「雅樹ー! ランニングの途中でサボるんじゃねぇぞ! 一年に示しがつかねぇだろうが!」
「ヤベ、部長に見付かった。じゃあな、蒼!」
雅樹はすごいスピードで、陸上部が輪を作っているほうへ走っていった。
風が動いたとき、かすかに汗の匂いがした。
珍しいシーンだったな、と気付いた。
中学に上がってから、わたしと雅樹は、学校では一対一で話したことがなかった。
ケンカをしていたわけではなくて、噂になるのを避けるためだった。
不思議なことに、別の小学校出身の子たちの目に映る雅樹は、
わたしや同じ小学校出身の子たちが知っている雅樹とは、どこか違っていた。
雅樹の顔が整っているのはわたしも認めるけれど、「カッコいい!」っていうのは違う気がしてしまう。
他校の子にそれを言うと、全力で否定された。
「学年でいちばんカッコいいよ!」って。
雅樹は顔がよくて、成績も運動神経もよくて、しゃべるとおもしろい。
頼まれればイヤとは言わないから、リーダー的なポジションに就くこともある。
まあ、雅樹だったら目立って当然なのかなって、木場山を離れた今になって急にわかった気がする。



