いや、もしかしたら、こっちが本当の自分だったのかもしれない。

木場山中の三羽烏の一人だったわたしは幻みたいなもので、化けの皮がはがれた正体は今のわたし。


「なあ、蒼」

「わたしは、迷惑なんだよ。木場山にしろ琴野にしろ、中学時代のわたしを知ってる人がいるって、すごくやりにくい。全部リセットして高校に入れたらよかったのに」

「じゃあ、木場山のころの蒼に戻ればいいじゃん。おれはそれがいいと思う。だって、あのころの蒼は、クールなとこはあったけどさ、毎日が楽しそうだった」

「うるさい」

「琴野中でのこと、忘れりゃいいんだ。いじめがあって、いろいろグダグダな学校だったんだろ? 蒼は根性あるのに、それさえボロボロにされるとか最低だ。
蒼にイヤな思いさせたやつなんて、おれもひとみも許さないよ。ちゃんと一緒に戦って……」

「うるさい!」


左の手の甲に痛みが走った。

痛みは一瞬で腕を走って、脳まで突き抜ける。


何が起こったのか、わたしは、自分の目で見てから初めて理解した。

わたしの右手が、わたしの左手にペンを突き立てている。

〇.四ミリのペン先は深々と皮膚に刺さっていた。


左手は痛みに震えた。

右手は、尖ったペン先が皮膚を突き破る感触を喜んでいた。

わたしは勢いよく右手を引いた。

左の手の甲に、ぐしゃりと、いびつな傷が走った。

インクの青が少しだけ傷口ににじんだ。

青はたちまち血の赤に呑まれた。