「わたしなんかと話すの、迷惑でしょ。つながりがあるって知られたら、面倒だよ」

「迷惑でも面倒でもないんだけど。あと、わたし『なんか』って言い方は嫌いだ」

「そう」

「チラッと聞いたんだけど、中学時代、苦労してたらしいな。ひどい環境の中でも意地を張り通したってのは、蒼らしいと思う」

「わかったふうなこと、言わないで」

「勝手にあれこれ言われたくないなら、ちゃんと話せよ。蒼さ、怖いよ。木場山のころと比べたら変わりすぎちゃって怖い。そんだけ苦しんだんだろうけど。何でおれたちにまでそんな態度なんだよ?」


長いまつげを持つ雅樹の大きな目を、わたしは見つめ返すことができなかった。

自分の弱さにイライラする。


琴野中に転校して木場山のことが過去の出来事になってしまったように、

高校に上がった今、中学時代のことを過去の出来事だと切り捨てられそうなものなのに、なぜだろう?

なぜわたしは、中学時代の心理状態や体調を引きずっているんだろう?


当たり前に話して、食べて、眠りたい。

また歌えるようになりたい。

ギターも思い出したい。

笑いたい。

智絵を誘って遊びに行きたい。


それができたら嬉しいって思うあれこれは、どうしようもなく遠くにあって、目を閉じて見る夢みたいにかすんでいる。

現実に立ち返れば、当たり前のことがうまくできない自分がいる。