ホールケーキを切るのはひとみの役目になった。
包丁を渡されたひとみは、慣れない様子ながら、わくわくしているみたいだった。
「これ、何等分すればいい?」
雅樹がすかさず答えた。
「七等分」
「七って、ちょっと待ってよー。三百六十度は七で割れないし、正七角形はコンパスと定規で作図できないやつでしょ。不可能なこと言わないの!」
「そこをどうにか」
「あたし、包丁持ってるんだけどー?」
「おっ、怖っ!」
ひとみと雅樹がふざけ合うのを、膜を一枚へだてたところから、わたしは見ている。
一緒に笑えない。
そっと光景から目をそらす。
ケーキを食べた後、わたしの部屋で勉強会をしていたら、ひとみのケータイに実家から電話が掛かってきた。
ひとみがベランダで電話をする間、わたしは雅樹と二人で部屋に取り残される。
雅樹はこのタイミングを待っていたみたいだった。
「蒼さ、何で学校でおれのこと避けてんの?」
「別に」
「去年の夏に、あの、いきなり抱きしめたののせい? あれはほんと、マジでごめん。謝らなきゃって思ってたんだけど」
「どうでもいい」
雅樹は、わたしの顔をのぞき込むようにした。
「じゃあ、何なんだ? どうしておれのこと避ける? てか、ひとみとも微妙にギクシャクしてない?」
雅樹の目に、わたしはどんなふうに映っているんだろう?
劣等感にさいなまれてばっかりの、笑うことさえできないわたしは。



