ひとみがわたしに向ける笑顔が痛い。
正面から向き合えない。
でも、ひとみはわたしの内心を察することなく、わたしの手を引っ張って、キラキラした声を上げる。
「ねえねえ、蒼ちゃん、理系特進の担任の先生がオープンキャンパスのときの数学の先生だったの! あいさつに行くから、蒼ちゃん、付いてきて。お願い!」
雅樹たちの担任は、平田先生といった。
四十歳で、背が高くてメガネを掛けている。
お坊さんっぽいと感じるのは、やや伸びかけの坊主頭なのと、染み入るような声をしているからだ。
あいさつに行ったら、平田先生は、ひとみのことを覚えていた。
というよりも、ひとみはオープンキャンパスの時点から先生方の注目株だったらしい。
「木場山中学校から、とんでもなく優秀な子が来ると、教職員一同、楽しみにしていたんですよ。実は、ぼくが初めて赴任した学校が木場山の隣の町でね。あっちのほうは、縁のある土地なんです」
「そうだったんですか! すごい。木場山、行ったことあります?」
「そりゃもう。学校の遠足で行ったのがきっかけで、気に入っちゃって、季節ごとに景色を見に行ってましたよ。きみたちの年齢だと、生まれていたかどうかっていう時期ですよね」



