わたしの番が回ってきた。
人前に立ってるのに、わたしは少しも緊張しなかった。
目の前に並ぶ顔と顔と顔が、生きているように思えなかった。
モノみたいに思えた。
手に持っているのが卒業証書じゃなくて銃だったら、簡単に犯罪者になれそうだな。
少年犯罪って、こういうことか。
わたしは口を開く。
「わたしは学校が嫌いでした。今日、別のクラスですが、友達が卒業式に出席していません。彼女はいじめられて、学校に来なくなりました。
こんな学校が嫌いでした。卒業するまで変わりませんでした」
教室は、しんとしていた。
わたしは冷めた目でクラスじゅうを見た。
顔と名前が一致しない人たちを眺める。
胸に罪悪感がある。
智絵のことを友達と呼ぶことへの罪悪感。
そばにいることすらしなかったくせに、わたしは何を言っているのか。
わたしは裏切り者じゃないか。
友達のふり、善人の顔をした、卑怯な裏切り者だ。
苦しくなって表情が歪みそうなのを、頭を下げてごまかした。
「変な話をして、すみませんでした」
わたしが席に戻る間に、担任が解説を加えた。
わたしが智絵のためにノートを清書して届けていた、と。
拍手が沸いた。
わたしは自分がみじめで、何もかもがバカバカしくて、叫びたくなった。
美談なんかじゃない。
そもそも、あんたたちが智絵をいじめなければ、智絵はちゃんと学校に来ていた。
わたしがノートを届ける必要なんてなかった。
わたしは、智絵を苦しめたこの学校という世界が、大嫌いだ。



