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私服で中学校の門の前に立つと、変な感じがした。
視界に映る人はみんな、学校指定の体操服やジャージだ。
グラウンドでは部活の片付けに入ったところだった。
いきなり、後ろから声をかけられた。
「蒼? 何で?」
男子の声だ。
声変わりが始まったばかりのかすれがちな声。
振り返ると、そこに立っていたのは、思ったとおり、雅樹《まさき》だ。
部活の練習の一環で、校外を走ってきたらしい。
「何でって、ここにいて悪い?」
「いや、そうじゃないけど。どうしたんだ?」
雅樹は同い年で、陸上部で、わたしよりも十センチくらい背が低い。
小麦色に日焼けしている。
目がパッチリとした顔立ちは華があって、アイドル系といってもいいくらい。
物おじしない性格で、女子からも男子からも先生方からも人気がある。
実は、雅樹とはずいぶん昔から縁がある。
わたしと雅樹は同じ保育園だった。
二人とも親が共働きだったからお迎えが遅くて、ほかに誰もいなくなった園舎で、
お利口さんにして先生の手をわずらわせずに、おとなしく遊んでいたらしい。
一緒に眺めていた絵本のこととか、おゆうぎ会で雅樹が演じた役とか、
断片的な記憶はわたしの中にもある。
母親同士が仲が良かったから、わたしの家が引っ越した後も、ときどき連絡を取り合って、年に一度は食事会をしていた。
小六と中一で、わたしと雅樹はまた同じ学校の同じクラスになった。
まわりには「親同士がもともと知り合いだ」とだけ言っておいた。
引っ越しの多いわたしにとって唯一の幼なじみなのだけれど、
そんな言い方は気恥ずかしくて、誰にもできなかった。



