――鼓動の速度が早くなる。

翠が待つこと十分。
少女は食器洗いを終え、湯飲みを持ってきては翠の前に差し出す。

「このような粗茶しか出せず申し訳ありませんが。」

「いや、ありがとう。」

粗茶と言うほどの物なのかは分からないのだが、適度に濁った緑茶の香りが香ばしい。
ふっと、台所の戸棚を見ると緑茶の葉が入っている木箱を見つけ、見るからに高そうなのだがここでツッコミを入れては少女に失礼だろうと想い、心を無にして緑茶を飲む。

「飲みながらでよろしいので、お聞きください。」

「お、おう。」

少女は翠の対面にゆっくりと正座をすると落ち着いたような表情で話す。

「まずは私の自己紹介をしなくてはなりませんね。 私は#蘇我 聖奈__そが せいな__#と申します。」

「おっと、俺は色取翠だ! 改めてよろしくだな。」

ペコッと両者は自己紹介をし、お辞儀をする。

「そして私は雷や電気を操れますが雷神ではなく、【七曜神】と言う神様です。」

聖奈は自分を神だと仰ったが、翠は別に気にするどころかウンウンと頷く。
――こんなにも可愛い子だし、異議はない……。
というように納得する。

普通ならナルシスト確定の判を押して笑い転げるだろう翠の性格でも認めざるを得なかった。

「ところで七曜神ってどんな神様なんだ?」

神話の知識は心得てはいるものの、七曜神の事は何一つ聞いたことがないため、不思議に思う。

「七曜神と言うのは七つの曜日を司る神の事で、それぞれの命の源の安定をさせる役目でもあります。」

「はえー、すごい神様だな。」

「そのうちの一つの姿が私なのです。 私は七曜神の内の月曜日を司る、月曜神です。 主に月の力を操り人々の心を落ち着かせる力を持っています。 雷の力はたぶん偶然の産物でしょう。」

確かに聖奈の声を聞くと優しい声の波長なのか、心が静かに落ち着ける。
それならここに来て不思議と落ち着けたのも納得が行く。

「まぁ、明日は火曜日ですのでまた別な私が翠様を導いてくれるでしょう。 炎を操る火曜神の私が……ね。」

最後に少し暗い笑みを浮かべたのは翠には気がつかなかったが、大事な話の本質が見えない。
そう言うと聖奈はお茶を少し飲んでは、話し声のない静かな空間になる。




















――いくぶんかお茶を飲み、静かな時間が流れた。

聖奈はコトンと湯飲みを置くと真剣そうな眼差しで翠の目を見て話す。
ここからが本題なのだろうと翠も一度正座の姿勢を正す。

「さて、本題ではありますが翠様の本来の肉体の修理を開始しています。 一方的で申し訳無いのですが、修理には善行が必要になります。」

「善行? つまり困ってる人を助けまくれば体は治るんだな? けど、俺の体は……? 何もないじゃないか。」

翠は自分の体を確かめてみるも、雷に撃たれた火傷の後や傷などは見当たらない。
それが不思議でたまらないのだ。

「今は魂を本物そっくりの体に移しているだけです。 とは言え、本物とは何一つ見た目も変わらないのですけどね。」

「なるほどな、なら話は早い。 善行を積みまくってやるぜ?」

とてもやる気に満ちた表情で、物事に決起をしたことがない翠にとっても、心の底からエネルギーが湧いてくるのが感じられる。

「あぁー、早く善行したいぜ! けど夜だしなぁ。」

夜なら人助けも何もできやしない、せっかくの熱意も興醒めだ。

「焦っても明日は必ず来ますよ。 さて、私からのお話は以上です。 それでは、先にお風呂へどうぞ。」

お話も終わり、一日の終わりの入浴が始まる。
食後で体が満腹感で動きにくいが、重い体を動かして風呂へと行くのであった。