――うわぁ、やべぇよやべぇよ……。

色取 翠はとてつもなく焦っていた。
下校中に大雨が降りしきる中、駆け足で自宅を目指し、靴が濡れようとも制服が濡れようともお構いなしに全力疾走をする。

「傘は持ってきていたけど、ヤバイな! うぉっ!?」

バチバチと叩きつけるような大雨と一緒に雹まで降り始めてきたからたまったものではなく、ここまでくると天候は最悪といっても過言ではない。
一瞬ではあるものの空を見上げると、灰色に黒を足したような見事な黒雲が空を覆っており、さすがの翠も不気味に思えてくるほどだ。

そして、音をたてて降り注ぐ雹であるが、雲の中に存在する無数の氷の結晶は落下と共にぶつかり合い、摩擦と共に稲光と放電をし始める。
蓄積された莫大な静電気は、大地に向かって放出をし始めるべく稲光を発し放つ。

「うぁっ、光った!?」

そう思った矢先、街には爆弾が落っこちたかのように多きな爆音を轟かせながら、一発の落雷が響き渡る。
ゴロゴロなんて生易しい音ではなく、本当に間近に落ちた雷は爆発音やバチバチと電気がスパークするような耳を塞ぎたくもなる音量で街の空気を震わせる。



















――誰かが泣いている……。

体が痺れる感覚を覚える翠は冷たき雨に撃たれながら仰向けに横たわっていた。
ただボーッと眺めることしかできず、そこに真っ黒な空の眼下で自分を見つめながら泣く少女が……。

少女は翠を見て泣いている。
出来れば声をかけてやりたいし、慰めてやりたい……。
けどそれは体の痺れている今は出来ない。

「あぁ……私はなんて事を。」

和服に刀をそえた少女がボロボロの翠を見つめる。

「どうして……泣いているんだ?」

力を振り絞り震える声を出し、少女に問い詰める。

「私は誤ってあなたに雷を落としてしまったことを悔いているのです。 あなたはまだ死ぬべきではないのですが、ここは私の世界に一旦お連れいたし、肉体の修復と歴史の改竄を行います。」


少女は翠の手を取ると淡い光の渦が巻き起こり、吸い込まれるような温かな感触に身を委ねた。

「雷か……。 雷神様なのか?」

「雷神ではなく、厳密には他の神になりますが、今は伏せておきます。 あと数分で私の世界につきますからね。」

女神様は大変身勝手に翠を自分の世界へと連れていくのだが、毎日がつまらない日常とおさらばできるなら異世界は悪くはないと思った翠は、今は心地の良い淡い光の渦の空間に身を委ね、到着を待つことに。