私が座ると彼はようやくスプーンを手に取った


小さく「いただきます」と手を合わせ、オムライスを一口頬張る


ゆっくりと味わっていた




もっとガツガツ食べるのかと思ったけど

凄く大切に食べて貰えている気がして嬉しくなる



「おいしい?」

ふふ、と笑って尋ねると


「はい、おいしいです」

と、もごもごした返事が返ってきた



「良かった。それにしても大変ね、高校生のいるお家は。お母さん、いつもいっぱいご飯作らないといけないでしょう」


いい食べっぷりを眺めながら言うと、彼は食べる手を止める



咀嚼し終わってから口を開いた


「一人暮らしです。上の階に住んでるってさっき言いました」


「あぁ、そうだった!そうだよね、マンション家族用じゃないもんね。高校生で一人暮らししてるの凄いね。じゃあ、ちゃんと食べてるかなって親御さん心配してるよ」




私が大学を卒業してから社会人になって一人暮らしを始めたのはつい最近のこと


親のありがたみを感じる日々を送っているのに、高校生にして1人で生活しているとは驚きだ



「一人暮らしはバスケのために?」

「.....はい」



再びオムライスを食べ出す彼を眺めつつ、私は「青春だぁ」と零した



日々一生懸命生活してるのに、それを青春だなんて言われたらウザいかもしれないな


けれど、病気がちの母親を手伝うためにバイトに明け暮れていた高校、大学生時代を思い返し、羨ましくなってつい口から出てしまったのだ



「でもフチ高、こっからそんなに近くはないんじゃない?」


「自転車で25分です」


「かかるよね。朝練もあるだろうに、早く家を出ないといけないの大変だよね」