「俺これから試合出るんです」
ぽけーっとしている私の横に座ると、自動販売機で買ってきたのであろう、スポーツドリンクを差し出す
表面に水滴がついたそれを受け取ると、指先がヒヤリと冷えた
「ありがとう...そっか、忙しいんだね。頑張れ」
覇気のない応援に、五月は少し心配そうな顔をして頷いた
「行ってきます。お友達呼んでください」
「そうね。でも大丈夫、ずっとここにいるし」
体育館で試合をしていれば、観客席の異変にはすぐに気がつくことができる
それに周りにも人がいっぱいいる
万が一また同じようなことがあっても、誰かが助けるだろう
「そうですね」
五月は納得した様子で立ち上がり、背筋を伸ばす
「がんばれ」
「はい。見てます」
僅かに微笑み、そう言い残して試合へと向かっていった
見てますって.....
なにそれ
「私が今から試合を見るのよ」
五月の言葉に思わず笑みとため息が出る
ここから遠ざかる背中を見つめ
「ボールだけ見てないと。こっち見てたら負けちゃうよ」
聞こえてはないだろうが
小さい声でそう呼びかけた


