ジャズの定番

シング・シング・シングだ



五月に連れられて体育館に足を踏み入れると、6、70人はいそうな大編成のバンドがエネルギッシュに音を奏でている


今はジャズメドレーの真っ最中なようだ



「これを見に来たかったの?」

「まぁ、それもあります」

「......それも?」



私の疑問には答えず、まっすぐと吹奏楽部の演奏を見つめる横顔が微笑ましい


立って鑑賞するお客さんの1番後ろで、2人は足を止めた


「なんか聞いたことありますね。この曲」

「グレン・ミラーのイン・ザ・ムードっていう曲よ。ブラバンジャズの定番」

「詳しいですね」

「私、高校は吹奏楽部だったの」

「そうなんですか」



やったなー、この曲

懐かしさを感じて、メドレーの最後まで聴き入ってしまった



拍手を終えると、どうやらこれが最後の曲だったのだろう

吹奏楽部員たちは撤収作業に入る



「そうそう、吹奏楽部って楽器の搬入と撤収を繰り返すあまり、プロみたいな動きするのよね」

「たしかに、迅速ですね」


自分の高校生時代と照らし合わせつつテキパキとした部員の動きを眺める



「管楽器もパーカスの運搬を手伝うんだけどね。あんまりティンパニとか運びたくないのよ、重いし階段がしんどいから。パーカスも、そこ持たないで!とか、そこ気をつけて!とかうるさいしね」


笑いながら披露する吹奏楽あるあるを、五月はうんうん、と頷きながら聴いてくれた



「俺にはあんまりよく分かんないですけど、早苗さんが楽しそうなとこ見れたから、良かったです」

「はは......」



おばさんの、楽しそうなとこ見せてすまん......


不覚にも

高校生に気を使わせてしまっていたようだ