あまり彼の時間を拘束するのも申し訳ないので、お喋りはほどほどにしようと思っていたのだが
聞き上手な安井くんの話術に乗せられて、私はついつい話し込んでしまっていた
「え!安井くん『転生したらドラゴンとして娘薬剤師の使い魔に生まれ変わった件』のアニメ見てたの!?」
「はい!"てんむす"見てました!オープニング曲がカッコいいなぁと思って見たら、すっごく面白くてハマっちゃったんです」
「なんだー!それ、ゆめかわ戦士と原作者が一緒なの!」
「そうなんですか!?」
こんなふうにしてキラキラと目を輝かせて反応してくれるのだから、饒舌になってしまう
いけないいけない
私は彼がケーキとセットのアイスコーヒーを飲み干すタイミングを見計らって
「ありがとね」
と照れながら礼を言った
「普段こう言う話をする友達がいないから、つい嬉しくなっていっぱい喋っちゃったわ。すごい楽しかった」
「いえ、僕も楽しかったです」
ニコリと微笑み返してくれるレイ......ではなく安井くんに、私はケーキのお代を手渡した
「ケーキも美味しかった。呼び込み係頑張ってね」
「はい!ありがとうございます」
「こちらこそ」
さて、校内散策の続きをしようかな
私は荷物をまとめて席を立つ
教室の出口に向かう途中で、依然として女子が集まっている人だかりをチラッと横目で見た
「え」
火野五月だ
女子に囲まれてクリームを泡立てているクラスでイチバンのイケメンとは
『偶然会ったら会ったということで!』と先程心に決めたばかりの、火野五月だったのである


