私は即座にカバンに入っていた財布を取り出し、千円を抜いて彼に差し出した


「これで買って」



案の定、五月は手のひらを向けて受け取りを拒む



「いいですって」

「ううん、本当は足りないくらいよ。味噌汁代とでも思って受け取って」




彼は気乗りしなさそうに千円を掴み「すいません」と謝る


そして受け取った千円を折り畳むと、ジャージの右ポケットに入れた




「すいませんは私のセリフなのに」



謝らなければならないのは私の方だ


合コンからはじまって、昨日は彼に沢山の失態を晒してしまった




「ありがとう、男から守ってくれたことも。ちょっと怖かったから助かった」


「はい。良かったです」



頷いた五月はお椀を片手に立ち上がり、キッチンへと向かう


「私が洗うから置いといて。急がないと遅れちゃう」



五月は一瞬ためらいを見せたが素直に従った


「お願いします。じゃあ俺は部屋に戻るんで」

「うん、ありがとう。気をつけて行ってね」




彼は頷いてから玄関へと向かい、壁に手をついてスニーカーを履く




そしてドアを閉める直前


「夜また来ます」


そう言い残して部屋を出て行った