さて
フライパンに油をひき具材を炒めようとしたところで気がつく
「おぉ、切るの上手なんだね。よく料理するの?」
まな板の端に寄せられたいちょう切りのニンジンは、サイズも形も揃っていた
出来るかな?、なんて思って任せたことを、見くびり過ぎていたかもしれないと反省する
彼は手を止めた自分の代わりにまな板を持ち上げて、包丁でニンジンをフライパンに落としながら口の端を緩めた
「料理はほとんどしません。でも、オムライスだけは結構.......」
「へー、本当にオムライスが好きなんだね」
想像以上のオムライス愛にカラカラ笑った私は、はっと我に返って「じゃあ自分ちで作れば?」と真顔で尋ねてしまう
「美味しくないんで」
「えー?何回か作ってればこんなん美味しくなるでしょ。具材からして美味しそうなんだから」
イチョウ切りも上手だったし
彼が料理オンチとは思えない
私は油の上でパチパチと音を立てるニンジンを菜箸で炒めながら、彼の表情を伺った
特に会話は続かない
「まぁいいや、人に作ってもらうのが美味しかったりするしね」
「はい」
「そっか。いいよね、手料理って。ホッコリする」
「はい」
すこし掴みにくいけれど、私は少しだけ彼のことがわかった気がして、まぁいいやと思いながら、用意しておいた他の具材もフライパンに投入した