午後8時


部活の帰り道


「いや悪かったって。でもああやって楽しい雰囲気でも作り出さなきゃ、こんなスパルタ部活のマネ誰もやってくんないからさ」


機嫌が悪いのか、はたまた元からそんな顔なのか

ぶすっとした五月をなだめるように、後ろを歩く筑紫がポンポンとその肩を叩く


「.....分かってます」



先輩は悪くない

マネージャーが必要なのも本当だ


今日の昼、部室でワイワイと盛り上がったお陰で女子たち3人は「不安だったけどマネージャーやろうかな」とか思うツボ通りのことを言っていた


ただタイミングが悪すぎた


これが今日でなかったら
こんなに気分が落ち込むことはなかったのに


肩にかけたエナメルバッグの中には行きと重さの変わらぬ弁当箱

ほとんど食べられなかったそれが、午後の練習中も頭から離れなかった



五月の顔を伺いつつ横を歩いていた木田が声をかける


「お前さ、手作りなら誰でもいいわけじゃないんだね。愛情こもった女子の手作りだよ?もっと美味しそうに食べるかと思ったのに」

「ほんとだよな」


桜庭も同意し五月の反応を伺う


しかしその表情はますます険しくなるばかりで、3人は顔を見合わせて肩をすくめた



「まぁいいやー。筑紫先輩、桜庭先輩お腹すきません?たまには奢って下さいよ」

「え、先週も奢ったけど」

「たかんな」



その時

五月が歩く足を止める



「ん、どうしたの?」


少し先まで歩いてから気がついた木田が五月を振り返る


車道を挟んだ道の向こう

何かを見ているようだった


「火野?」

「先、帰ってて」

「え?」


そう言い残すと彼は来た道を戻って走り出し、信号が黄色く点滅する横断歩道を渡って反対側の歩道へと向かった