「瑠璃さんに、海の見えるレストランでプロポーズしてるんだと思ってた」
「……今度は何の話?」
「深い瑠璃色だった海が夕日で赤く染まって、真っ白なテーブルクロスも瑠璃さんが生まれた年のシャンパンも、きれいな茜色に染まる」
「……………」
「その茜色のシャンパングラスの底には、茜に染まらないダイヤモンドが一粒、一番星のように輝いていて。『きみの瑠璃色をまるごと俺色に染めたいんだ』って」
「……誰だよ、それ」
「啓一郎さんが瑠璃さんに会うと思って、ずーっとこんな妄想ばっかりしてたんです!」
元カノのことなんて笑って流せるオトナの女性になりたかった。
けれど、啓一郎さんの過去をまるごと焼き付くしてしまいたいくらいに嫉妬心が燃え上がる。
「本当によく思い付くよな、そんなの」
「妄想はタダですから。節約生活中の善き友でした」
わたしの涙を拭いつつ、啓一郎さんは確認するように頬っぺたを何度も撫でた。
「よく頑張ったな。こんなに痩せ細るまで。大変だっただろ。元に戻るまで、責任取って何でもごちそうする」
「元に戻るまでですか?」
不満で尖ったわたしの唇が、啓一郎さんによってなだめるように包まれた。
やさしく触れて、離れる瞬間、少しだけ音がした。
「元に戻ってからもずっと」
「……何回でも? 何年でも?」
今度は約束を残すようにしっかり唇が重ねられ、頭がぼんやりしてしまう。
「何回でも。何年でも」
「楊貴妃になっちゃう」
ぎゅっと強く引き寄せながら、声を立てて啓一郎さんは笑う。
「なってもいいよ。そばにいてくれるなら」
ああ、今ならわたし、きっと愛しさで吐ける。
近くて遠い、届きそうで届かなかったお隣さん。
やっと、やっと届いた。
「……今度は何の話?」
「深い瑠璃色だった海が夕日で赤く染まって、真っ白なテーブルクロスも瑠璃さんが生まれた年のシャンパンも、きれいな茜色に染まる」
「……………」
「その茜色のシャンパングラスの底には、茜に染まらないダイヤモンドが一粒、一番星のように輝いていて。『きみの瑠璃色をまるごと俺色に染めたいんだ』って」
「……誰だよ、それ」
「啓一郎さんが瑠璃さんに会うと思って、ずーっとこんな妄想ばっかりしてたんです!」
元カノのことなんて笑って流せるオトナの女性になりたかった。
けれど、啓一郎さんの過去をまるごと焼き付くしてしまいたいくらいに嫉妬心が燃え上がる。
「本当によく思い付くよな、そんなの」
「妄想はタダですから。節約生活中の善き友でした」
わたしの涙を拭いつつ、啓一郎さんは確認するように頬っぺたを何度も撫でた。
「よく頑張ったな。こんなに痩せ細るまで。大変だっただろ。元に戻るまで、責任取って何でもごちそうする」
「元に戻るまでですか?」
不満で尖ったわたしの唇が、啓一郎さんによってなだめるように包まれた。
やさしく触れて、離れる瞬間、少しだけ音がした。
「元に戻ってからもずっと」
「……何回でも? 何年でも?」
今度は約束を残すようにしっかり唇が重ねられ、頭がぼんやりしてしまう。
「何回でも。何年でも」
「楊貴妃になっちゃう」
ぎゅっと強く引き寄せながら、声を立てて啓一郎さんは笑う。
「なってもいいよ。そばにいてくれるなら」
ああ、今ならわたし、きっと愛しさで吐ける。
近くて遠い、届きそうで届かなかったお隣さん。
やっと、やっと届いた。



