「母が俺を薦めたとき、小花はものすごく困ってたから、嫌なんだと思った」

「啓一郎さんに伝えてないのに、先におばさんに言えるわけないじゃないですか!」

あのとき言えなかった心の叫びが、涙とともにほとばしった。
顔中にティッシュを当てて、思い切り泣く。

「ちょっとくらい打算があったって、俺は構わなかったよ」

気づいたら、啓一郎さんの腕の中にいた。
まだあたたまらない部屋で、そこだけはあたたかい。
明るいグレーのシャツはこぼしてしまった涙のラインがはっきり見える。
その生地に涙を吸わせるように顔を押し付けた。

「ケーキ奢って奨学金返して、それで小花がそばにいてくれるなら悪い話じゃないなって」

「だから! そう思われるのが嫌だったんです! だって、」

啓一郎さんのきれいな黒髪を鷲掴むようにして、真っ直ぐに目を合わせる。

「だってわたしは、啓一郎さんのことが本当に本当に大好きなんだもん!」

しっかり固定したはずなのにあっさり手を取られて、赤い顔を背けられた。

「こういうひとだってわかってたはずなんだけど、まともに来られると反応に困るな」

「困ってないでちゃんと答えて」

「いや、ちょっと待って。俺、こういうの本当に苦手で……」