変化のない窓を見ることに疲れ、日曜日はあてもなく街をふらふらと歩いた。
悩みのないひとなんていないと啓一郎さんは言ったけれど、親子連れも、友人同士も、恋人たちも、みんなわたしよりはずっと幸せそうに見えた。


「小花ちゃん、もう風邪はいいの?」

「もう完全復活です! ありがとうございました」

洗ったタッパーとお礼のチーズケーキをおばさんに届けると、おじさんも珍しく玄関先に現れた。

「灯油は間に合ってる?」

「はい。いっぱいに入れてもらったし、あまり家にいないので週末までもちそうです」

ちらりと見回したたたきに、啓一郎さんの靴はなかった。

頭がぐわんぐわんと揺れる。
作り笑いが疲れる。
息ができない。

お茶をすすめるおばさんをなんとか断って自宅に戻り、コートも脱がずにベッドに倒れ込んだら、睡眠不足のせいかそのまま深く寝入っていたらしい。
起きたときには、すでに夜の入り口だった。
薄闇の中で目覚めると、まるで世界でひとりぼっちのような心もとなさを感じる。
本当に世界にひとりぼっちなら、こんなに悲しい気持ちにならなくて済むだろうか。

身体を起こして窓から外を見ると、水色のカーテンは閉まっていた。
それを透過して、存在を示すように漏れ出す灯り。
そのやわらかい色を見ただけで涙があふれて止まらなかった。
ひとりなのをいいことに、声を我慢せずに泣いた。
固いコートの生地でさえ、袖がすぐにべちゃべちゃになる。

「啓一郎さん」

見えるほど近くにいても、声すら届かない相手だ。
あの日返ってきた返事が聞こえることはない。

「啓一郎さん」

水色のカーテンはちらりとも動くことがない。
啓一郎さんの心にも、わたしの声は届かないのかもしれない。