「おばさんが人生で一番幸せだったことって何ですか?」

わたしは啓一郎さんと出会えたことです~。

「そうねえ。月並みだけど、啓一郎が生まれたことかな」

「なるほど~」

同じ意見だなんて、気が合いますね!

にやにやと啓一郎さんを見たけれど、相変わらずの顔色でパイナップルを食べている。
当たり前だけど、このひとはおばさんから産まれたのだ。
おじさんとおばさんに、心から感謝したい。

「啓一郎さんってどんなお子さんだったんですか?」

「その話はしなくていい」

本人の許可は下りなかったけれど、おばさんはさらっと無視した。

「とにかく人見知りでおとなしくって、幼稚園に馴染むのも一年以上かかったから心配したの」

「今とあんまり変わってませんね」

「だから小学校入学もかなり心配だったんだけど、近所のかわいいお姉ちゃんが一緒に連れてってくれて、意外にもすんなり馴染んだのよね」

「へー」

このオレンジ、味うっっすい!!
お皿に残ったオレンジの皮をフォークでザクザクと突き刺した。

「なんかちょっとそのときのこと思い出して。小花ちゃんがいると、啓一郎もよく話すから」

ほほー、人見知りの啓一郎君も、そのお姉さんとはよく話したんだ。
ふーーーーん。

「話しかけられたら嫌でも答えるよ」

不貞腐れたような態度で啓一郎さんは言った。
まるで仕方なく付き合ってやってるかのように。

「それに、小花の発言って放置したら危険なこと多いし」

突き刺し過ぎて、オレンジの皮はペナペナになっていた。

「すみませんでしたっ! 話しかけないように気をつけますから、どうぞ放置してください」

やっぱりわたし、酔っぱらってる。
いつもなら笑って流せる言葉にイライラして仕方ない。

「まあまあ、喧嘩しないで」

主賓であるおばさんに気を使わせてしまい、反省してペナペナのオレンジを解放する。

「すみません。空気悪くしちゃって。さて、熱いうちにお蕎麦食べよーっと!」

精一杯笑顔を作ってみたけれど、さっきまでのへろへろとしたものにはならず、うまく場か収まった自信も持てなかった。