へろへろ笑うわたしに、ほほほと上品に返す。
おばさんは食前酒を舐めただけだし、おじさんと啓一郎さんはビール2~3杯では酔った気配もない。

「啓一郎さんはちゃんと酔ってます?」

「飲んでるんだから酔ってるよ」

「嘘嘘嘘嘘! 飲んだふりして、そこの植木鉢にでも捨ててるんじゃないんですかー?」

「なんのために」

わたしが啓一郎さんに絡んでる隙にも、おじさんは何杯目かのビールを注文している。

「お酒強いのはおじさん譲りですかねえ。お酒の失敗なんてなさそう」

「ないな」

「小花ちゃんはあるの?」

熱々のお鍋にもがっついてやけどすることなく、おばさんは冷ましたつみれに舌鼓を打っている。

「そうですねー。いろいろあるけど、最近ひどかったのは去年の忘年会で、トイレから戻ったら部屋を間違えたことです」

同じ襖が廊下に沿って並ぶ造りだったために、右なのか左なのかわからなくなったのだ。

「お膳の内容も一緒で、食べたはずの土瓶蒸しが丸々残ってたんです。『食べてなかったんだ! やったー♪』っておいしくいただきながら、隣のひとと楽しくおしゃべりしてたんですけど」

「気づかなかったの?」

おばさんも鍋を往復させていた箸を止める。

「『初対面のひと多いなー』ってくらいでした。で、中締めの挨拶した部長に心当たりがなくて……」

「どうしたんだ?」

過去の話にも関わらず、啓一郎さんは心配そうな表情を浮かべて言った。

「トイレに立つふりで逃げました」

「申し訳ないんだけど、」

おじさんがステーキの付け合わせの人参をポンッと口に放り込んだ。

「それは酒の失敗じゃなくて、ただの失敗じゃないかな」

くすくすとおばさんが笑って、足りない言葉を補足する。

「つまり、小花ちゃんなら酔ってなくてもやりそうだってことね」

「そうだな」

啓一郎さんも深く同意。

「え? え? わたしの評価ってどうなってるんですか?」

「いいの、いいの。それが小花ちゃんのいいところなんだから」

いいところかどうかはさておき、褒められるのは悪い気がしないので、またすぐにへろへろと笑う。

「おばさんがそう言うなら、まあいっか」

末席を汚しているだけのわたしが一番酔うという失態だった。
それでも宮前家のみなさんは酔ったわたしを肴に食事を楽しんでくれていた。