「パンプキンタルトが食べたい」と言ってしまった手前、それがあるカフェに啓一郎さんを呼び出した。
郊外のショッピングモールの一角にあるので、わたしは仕事終わりにバスで、啓一郎さんは車でそれぞれ向かう。

「ごめん。ちょっと遅れた」

約束の6時半を3分しか過ぎていないのに、律儀なひとだ。

「大丈夫ですよ。とりあえず注文しましょうか」

カフェなので軽食に近いものしかメニューになくて、悩む啓一郎さんに声を掛けた。

「付き合わせてごめんなさい。食べたいもの見つかりそうですか?」

「いや、付き合わせたのこっちだから。こういうところ久しぶりで、ちょっと物珍しいだけだよ」

時折、啓一郎さんの背後に女性の気配を感じることがある。
人見知りで照れ屋のくせに、自然と女性にペースを合わせるときとか。
『こういうところ』『久しぶり』なら、以前は誰かとカフェに来ていたんだなってこととか。

「わたし、魚介のトマトリゾットとパンプキンタルト。あとブレンドコーヒー」

「じゃあ俺は、きのこのトマトソーススパゲティとブレンドコーヒーで」

店員さんが下がると、

「さっそくですけど」

と切り出した。
こうして会うのはあくまで目的があるからで、わたしもそれに関しては真剣に考えてきたのだ。

「還暦祝いってお話でしたけど、特別『還暦』を意識する必要ないと思うんです。還暦って言えば赤いちゃんちゃんこのイメージですけど、そんなのみんな欲しくないでしょ?」

商談でもするかのように啓一郎さんは背筋を伸ばして真剣に耳を傾ける。

「特に啓一郎さんはこれまで何もしてこなかったんだし、お祝いするだけでも十分特別なんです。だから、迷惑にならないものであれば何でも喜ばれると思うんですよね」

一般的なものの参考として、サイトからプリントアウトした人気のプレゼントランキングをいくつか示す。

「おばさんはお花が好きだし、ブーケは間違いないと思うんですけど、もう少し何かあった方がいいですよね? 多分そんなに高価なものを喜ぶようなひとには思えないから、普段使いできるものがいいかな。だから、こういう貴金属とか高級バッグはなしですね。バッグでも、普段のお買い物に使えるものならいいですけど、それだと値段的に安すぎるし」

ランキングのオススメにはマーカーで印をつけておいた。

「だからこの中ならお財布か時計がいいと思うんです。これなら多少高価なものでも日常的に使えますから。ブランドを押し出したものじゃなくて、あくまでおばさんの好みで選ぶのがいいと思います」