「わたしにはありがたいお話ですけど、啓一郎さんは嫌じゃないでしょうか? いきなり他人が入ってきて」

さっきの啓一郎さんの態度だと、とても歓迎してくれそうには思えない。

「啓一郎? 大丈夫よ。家に誰がいたってマイペースに動く子だから」

あの態度を思い返し、それもそうかと納得する。
それに両親が許したのなら、例え嫌でも面と向かって反対はしないかもしれない。
少しの間だし、迷惑がられてもまあいいかとわたしも覚悟を決めた。

「じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔します。よろしくお願いします」

「どうぞどうぞ」

「それであの、ひとつお願いが……」

そうと決まれば気になることがある。

「なあに?」

おばさんはゆっくり小首をかしげた。

「実はさっき、啓一郎さんのワイシャツとパンツを泥で汚してしまって。それ、洗濯させてもらえませんか?」

クリーニング店もお休みだろうし、洗濯機は使えない。
それでも放置しているとどんどん取れなくなってしまう。

「そんなの気にしなくていいのよ。どうせ安物だし」

「いえ。啓一郎さん、ずいぶん怒ってましたから」

「何か言われたの?」

「言われたわけじゃないけど、かなり不機嫌そうでした」

申し訳なくて顔をまともに見られなかったけれど、声色は冷たく感じた。
話しもしたくないとばかりにさっさといなくなってしまったから、許してもらっていない。

「たぶん気にしてないわよ。ああ見えて、怒ることなんてほとんどないの」

「それでもシミになる前に洗った方がいいですし。わたしに貸してください」

「ちょっと待ってね」

おばさんは出ていき、居間にはおじさんのお茶をすする音と新聞をめくるパラリという音が大きく響く。

「これね」

パタパタとおばさんは戻ってきて、啓一郎さんの白いワイシャツを広げた。
こころなしかさっきより濃く茶色のシミが見える。

「このくらいならすぐ取れるから、私がやっておくわ」

「申し訳ないのでやらせてくださいー!」

「そう? じゃあ、うちのお風呂場でどうぞ」