「小花」
お皿を片付けようとしたわたしの手を啓一郎さんが引いて、すぐ目の前に座らされた。
「改めて、誕生日おめでとう。来年から、十年後も、二十年後も、一番最初に言うって約束するから」
「うん。わかった」
強く握っていた啓一郎さんの手から力が抜ける。
「あの、意味わかってる?」
「わかってる、わかってる」
「大事な話だよ?」
「わかってるって」
「…………そう? それならいいけど」
落ち込み気味に離れかけたその手を、両手で握り直した。
本当の本当にわかってる。
嬉しくて恥ずかしくて、まともに受け取ったら破裂しそうなほど。
啓一郎さんに言われてからちょっと調べた。
“比翼の鳥”は片方ずつしか羽のない鳥で、ふたり一緒でないと飛べないらしい。
“連理の枝”は死して尚引き離された夫婦のお墓から木が育ち、互いを求め合って絡まった故事に由来するそうだ。
とても強い結び付きの話。
それでも思う。
「啓一郎さん」
「ん?」
「並んで飛ぶ鳥を、手を繋いで見ましょうね」
「へ? ……ああ、うん」
「枝を絡ませ合う木の下でカレーライス食べましょうね」
「そうだな」
啓一郎さんは吹き出すように笑って、
「金剛力士像みたいに」
と付け加える。それから誓うように真摯な深いキスをくれた。
「ふふふふ! “極濃”!」
鳥にも枝にもなりたくない。
わたしはわたしのまま、啓一郎さんは啓一郎さんのまま、エメラルドの風に包まれながら、こんな風に生きていきたい。
end.



